宗教新聞について

平成17年10月5日

 彼岸花とはよく名付けたもので、お彼岸のころ、田んぼのあぜや土手に群生し、赤い色に染める。「曼珠沙華」(まんじゅしゃげ)は「天上の花」という意味で、おめでたいことが起きる兆しに、赤い花が天から降ってくるという仏典による。花が散ると葉が伸びてくるが、冬と春を越し、夏が近づくと消えてしまい、花と葉を同時に見ることはできない。韓国では「花は葉を思い、葉は花を思う」という意味から「サンチョ(相思華)」と呼ぶそうだ。こちらも趣があっていい▼球根にはリコリンという毒があり、ノネズミやモグラを防ぐ効果があることから、あぜや土手に植えられたという。昔はこの白い球根をイイダコ釣りに使っていた。四方に反り返った釣り針に球根をくくりつけ、海底に垂らすと、えさだと思ってイイダコが覆い被さってくる。それを指先に感じると大急ぎで引き上げるのだが、鋭い歯でよく糸を切られた。瀬戸内海の小波に揺られながら、薄暗い海底で白くぼーっと光っている球根を想像したものだ。もっとも、普通は白い陶器製の玉を使う。網にかかった玉つきの針を小船に乗った漁師が、ちゃっかり釣り人たちに売って回っていた▼「赤い花なら曼珠沙華、オランダ屋敷に雨が降る」と歌ったのは春日八郎。日本の風景にすっかりなじみながら、何となく異国情緒の漂う彼岸花は中国の原産。古代、大陸や半島から仏教とともに渡ってきたのだろう。花の色が白や黄色の変わり種もある。彼岸花が姿を消すころ、稲の刈り取りも終わり、秋祭りの笛や太鼓の音が風に乗って聞こえてくる。田舎の秋の風景を、いつまでも守りたい。


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