宗教新聞について

10月5日

 彼岸のころ訪れた香川県牟礼町の真言宗善通寺派六萬寺には、庭一面の彼岸花が赤い絨毯のように咲いていた。
来年のNHK大河ドラマは「義経」だが、ここ六萬寺は源平の合戦の折、平家が戴いた幼帝安徳天皇の行在所となっている。
そのため、「平家の仮御所」とも呼ばれてきた。義経軍の追討が迫る中、公家たちが寺に残した歌の一つに、「嬉しくも遠山寺に尋ね来て 後のうき世をもらしつる哉」(平重衡)がある
▼寺伝によると、疫病が流行した天平年間、聖武天皇が行基に命じて建立し、その霊験によって疫病は治まったという。
それに感謝した六万戸の人々から六万体の薬師如来像が奉納されたことから、当初の国豊寺を「六萬寺」と改称した。
本尊は阿弥陀如来坐像で、三体の金銅仏の如来立像があり、二体は朝鮮三国時代に、一体は新羅時代に渡来したもの
▼それほど由緒があり、かつては広大な寺領を有していた六萬寺が、数年前から無住になっていた。戦後の農地解放で寺領の田を失い、檀家がないことから、残された敷地を切り売りして維持してきたが、立ち行かなくなったのである。
そこで、本山の意向を受け、住職として寺を復興したのが今雪真善さん(73)。国際協力機構(JICA)を定年退職した後、修行して僧になった▼今雪さんは長年、南米に移民した日本人の支援に携わってきた。その先々で彼らの死に遭遇すると、僧に代わって般若心経を唱えた。肉親が涙を流して喜んだことを母に話すと、正式な僧になるよう勧められたという。そして、住職になって以来、開かれた寺づくりを進めている▼そんな話を聞くうちに夕刻六時となり、近所の子供たちが集まってきた。一緒に鐘を突く今雪さんの楽しげな姿に、越後出雲崎の良寛さんが重なって見えた。



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