宗教新聞について

平成17年7月5日

 奈良・東大寺の二月堂の庭に多羅葉(たらよう)という木があった。葉の裏に小枝などで傷をつけると黒褐色に変色し、その色は枯れても変わらない。古代インドでは小枝で字を書き、写経に用いたといわれることから、全国の寺院によく植えられている▼多羅葉はモチノキ科モチノキ属の常緑高木で、本州中南部や四国、九州、中国に植生している。樹幹が立ち、樹形は非常に端正。葉の表には光沢がある。傷をつけると、葉液に含まれるタンニンが外性酸化酵素により酸化して黒褐色になる。別名「はがきの木」とも呼ばれ、郵政公社では「郵便局の木」と定め、郵便局のシンボルツリーとして全国的に植樹運動を進めている▼最近は電話や携帯、インターネットの発達ではがきや手紙を書くことは少なくなった。それでも、はがきや手紙には単なる文字伝達以上の価値があるような気がする。天地子は二男が小学校五年生の一年間、小児ぜん息治療のため学校が併設された病院に入院した時、カウンセラーの勧めで、手づくりの絵葉書を書いたことがある。言葉は少なめに、身の回りや思い出の風景を色鉛筆で描いて、一週間に一枚出す▼ちょうど一年後、二男はぜん息を克服し、元の小学校に戻ることができた。病院から持ち帰った荷物の中には、番号を振った絵葉書が大事そうに納まっていた。卒業記念に作った文集の「私の尊敬する人」の欄に、「父さん」と書いてあるのを見て、うるうるしたのを覚えている。もっとも、大学生になった彼とのやり取りはメールがほとんどで、それも「元気か」「金はあるか」とごく短い。

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