宗教新聞について

平成17年7月20日

 映画『きみに読む物語』は認知症になった妻に、夫が二人の出会いからの物語を語って聞かせる話。妻は次第にそれが自分のことだと気づくようになるが、次の瞬間には目の前にいる夫に、「あなたはだれ!」と叫ぶ。そんな不安定な老妻を、夫は我慢強く介護する▼天地子は認知症になった母が老人ホームに入っている。脳内出血が原因で徐々に症状が進み、足も動かなくなった。気候がいい日には車で連れ出し、昔のことを知っている人を訪ねたり、生まれ育った場所に連れて行ったりしている。突然、まともな答えが返ってくることもあるので、こちらの想像以上に話は理解しているのかもしれない▼がんと十年間闘った宗教学者・岸本英夫は「死は大いなる別れである」と言っている。クリスチャンでありながら、近代知識人として死後の世界を信じきれず、仕事に打ち込むことで生きた証を残そうとした。その結果、社会とのかかわりの中で、岸本は長く記憶されることになる。同じような生き方をした医師も多い▼どうも人間は、自分の物語を紡ぎながら生きているようだ。縦軸は時間であり、横軸は人や社会とのかかわり。そのどちらからも断絶され、孤独に陥るのが怖いのだろう。かかわりを保ち、それを少しでも高めようとする。それが人の一生ともいえる。自分の力でそれができなくなった人には、手助けしてあげよう。母が最後まで自分の物語を紡げるよう、祈る日々である。

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