宗教新聞について

平成17年8月5・20日

 来年、松平健主演の『バルトの楽園』という映画が公開される。第一次世界大戦の青島(チンタオ)で日本軍に囚われたドイツ人俘虜に対して寛容な待遇をさせた、徳島県の板東俘虜収容所長・松江豊寿(とよひさ)大佐が主人公。バルトとはドイツ語でひげのこと。松江大佐が立派なカイゼルひげを蓄えていたことから付けられた。板東ではドイツ人俘虜と地域住民との間に民族を超えた心の交流があり、大正八年には日本初のベートーベン『交響曲第九番・歓喜の歌』が俘虜たちによって演奏されている▼松江大佐は会津の生まれで、戊辰戦争で薩摩に敗れ、屈辱的な処遇を体験したことが、俘虜に対する人間味あふれる対応になったとされる。また、日露戦争の後、韓国駐さつ軍司令官の副官となり、韓国の人たちを統治する役割を演じたことに、同じ境遇を味わった者として、内心、じくじたるものがあったという。近く鳴門市に大規模なセットが建てられ、撮影が始まる▼そうした歴史から鳴門市にドイツ記念館ができたのは戦後、満州から引き揚げてきた高橋春枝さんに負うところが大きい。彼女は雑草に覆われたドイツ人の墓標を見つけ、草を刈り、花を手向けるようになった。昔のことを覚えている老人たちも手伝った。昭和三十五年にそれを報じた徳島新聞を読んだ駐日ドイツ大使が墓参に来た。墓参を終えた大使は、ハルエ・タカハシに会いたいと言った。もじもじする彼女の手を取り「アリガト、アリガト」と繰り返したという▼お盆で実家に帰ったら、真っ先にお墓の掃除をしよう。何より私の心が清々しくなる。

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