宗教新聞について

平成17年11月5日

 ギリシャ神話の愛と美と豊穣の女神アフロディテは、地中海の泡から生まれたとされる。西風に吹かれ、たどり着いたのがトルコの南に浮かぶキプロス島。首都ニコシアから車で南に走り、空港のあるラルナカから海岸沿いをリゾート都市リマソールに向かう途中の海岸近くに、アフロディテが生まれたという岩礁がある。道路沿いの断崖の上から見下ろすと、透き通るような海の青に藍が重なり、美の女神の生誕地にふさわしい。海上交通の要衝であったキプロスには、古代ミケーネからギリシャ、ローマ、そしてイスラムに至る文明の痕跡が残っている。イコンに埋め尽くされたキプロス正教の教会があるかと思えば、単に祈りの空間があるだけのモスクもある▼リマソールのホテルに泊まった早朝、地中海の日の出を見ながら一人で泳いだ。五月半ばで、水は少し冷たかったが、海と太陽を独り占めにしているようで、快感この上ない。すると、突堤の上で、まるで坐禅をするかのように座っている一群がいた。後でボーイに聞くと、ドイツから来た瞑想の一行だという。ドイツや北欧諸国にロシアと寒いヨーロッパの人々にとって、キプロスは人気の観光地だ▼ニコシアから北キプロスとの国境線上を東に三時間ほど走り、島の東海岸にある古い修道院を訪ねた。キプロスは一九七四年の紛争以来、トルコ系の北とギリシャ系の南に分断されている。国境沿いには鉄条網が延々と続いていた。田園地帯には、オランダのように風車が林立している。地下水を汲み上げるためで、ズッキーニなどの野菜が特産。知人の紹介で訪ねた農家の主人は、農業用水の値段の高さに悩んでいた。美しい神話の島も、人々の現実は楽ではない。

↑ PAGE TOP